人の行動心理をビジネスに活かす方法 ~「タイパ決断」を前提に、成果の出る仕組みをつくる~

執筆者
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池谷 卓
中小企業診断士

約30年以上にわたり、素材メーカーに勤務し、国内外の生産設備・ライン
設計・保全や生産拠点運営、新事業開拓、経営企画、DX推進等を経験。2023年に中小企業診断士として登録。

目次

1. 人は「考えて」決断していない

17世紀の哲学者パスカルは、「人間は考える葦である」と述べました。人間は自然の中ではか弱い存在だが、思考する力を持つがゆえに尊厳がある、という意味です。

しかし、現代の私たちは本当に「考えて」決断しているのでしょうか。

ビジネスの現場でよくある、

前日の売上明細や生産データを詳細に確認しない。

部下から上がってくる稟議書をざっと確認して承認する。

顧客はいつも同じ商品を選ぶ。

一方、プライベートでは、

ドラッグストアでは成分表を見ずに、「いつもの」シャンプーを手に取りかごに入れる。

スマートフォンに届いた通知を反射的にスワイプする。

ネット通販では「口コミが良いから」という理由で購入ボタンを押す。

これらの多くは、緻密な分析や論理的検討せずに行っています。

私たちの脳は、完全でなくてもいいから、できるだけ早く答えを出したいという特性があるのです。

この「タイムパフォーマンス(タイパ)」を重視した意思決定が、日常の大半を占めているのです。

本稿では、この判断の仕組みを「タイパ決断」と呼びたいと思います。

2. タイパ決断とは何か

人間の脳は、体重のわずか約2%しかありませんが、体全体のエネルギー消費量の約20%を占める「大食漢」です。そのために、もし、売上データを毎回すべて精査し、すべての稟議書を一字一句確認し、そしてすべての購買判断を比較検討していたら脳はすぐにエネルギー切れを起こしてしまいます。

そこで脳は、まず省エネモードで判断しようとします。それが「タイパ決断」です。このとき脳は無意識のうちに、目の前の難しい問題を、扱いやすい簡単な問題に置き換えて処理しています。
例えば、生産実績データの確認の場合、本来の問題は、「この数値は正しいか」「異常値はないか」を確認することです。しかし実際には、「彼女が担当しているから大丈夫だろう」と判断し、詳細確認を省略することがあります。この時、脳は「データの妥当性を検証する」という複雑な問題を、「この担当者は信頼できるか?」という、より簡単で答えやすい問に置き換えているのです。結果として、異常値を見逃し、後工程で手戻りやトラブルが発生するなど不具合につながることがあります。これは能力や意識の問題ではなく、人間の脳の仕組みとして誰にでも起こり得ることなのです。

3. タイパ決断が生む「選ばれない」問題

このタイパ決断は、顧客の行動にも同じように現れます。例えば、ケーキ屋に入ったとき。ショーケースに多くの商品が並んでいても、顧客は、「どのケーキが一番おいしいか」という難しい比較検討を嫌がり、「失敗しないか」、「後悔しないか」という、より簡単な問いに置き換えます。その結果、こだわりの商品が選ばれない、新商品が動かないなどの状況が生まれます。つまり、売れない原因は商品力などではなく、顧客のタイパ決断にある可能性が高いのです。

4. 経営者がやるべきこと

では、この抗えない脳の特性と、どう向き合えばよいのでしょうか。経営者がとるべき戦略は明確です。判断の仕組みを変えることです。

  1. 社内の意思決定を設計する

「ちゃんと確認しろ」と言う代わりに、確認せざるを得ない仕組みをつくります。

・異常値だけが自動で浮かび上がるダッシュボード

・定期的に「あえて全件確認する日」を設ける

・承認時に見るポイントを3つに絞る

  1.  顧客の選択を支援する

顧客の選ぶ苦労の肩代わりをし、心理的なハードルを下げてあげます。
選択の代替指標: 「当店No.1」、「迷ったらこれ」、「初めての方におすすめ」を示して、選ぶ手間を省く

失敗リスク低減:一口サイズの試食品、返金保証、期間限定の少量セットで損をする怖さを取り除く

結果として、顧客は新しい商品を選びやすくなり、売上や客単価の向上につながります。

5. まとめ

今回ご説明したポイントは、次の3点です。

・人は合理的に判断していない

・判断ミスは個人の問題ではなく、脳のくせである

・だからこそ、判断は「仕組み」でコントロールできる

変化の激しい環境の中で、私たちには迅速な意思決定が求められます。その多くは、一定の誤りを含んだまま下されます。しかし、その仕組みを理解し、前提として設計すれば、判断に伴うリスクは下げられます。

このような判断の仕組み、つまり行動心理を理解することは、再現性のある経営ツールを一つ手に入れることにつながるのです。

社員が考えないのではなく、顧客がわかってくれないのでもなく、私たちの脳はそのような特性を持っているだけなのです。その特性を前提に、ストレスなく良い判断ができる環境を整えること。それは、経営の重要な視点の一つと言えます。

当社3Rマネジメントでは、こうした人間の行動心理(行動経済学)に基づき、営業力強化、マーケティング力強化、ブランド強化、製品力向上、組織能力向上などに関する豊富な支援実績を有しています。ご興味のある方は、ぜひお気軽にご連絡ください。

執筆者

中小企業診断士
技術士

約30年以上にわたり、素材メーカーに勤務し、国内外の生産設備・ライン
設計・保全や生産拠点運営、新事業開拓、経営企画、DX推進等を経験。2023年に、中小企業診断士として登録。

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