プレイングマネージャーが組織課題を増やす理由──「フルマネージャー移行」を成功させる管理職設計

目次

管理職設計でつまずく“プレイングマネージャー問題”

管理職になったのに、結局は自分の案件・自分の数字を抱え続ける。部下の面倒も見ているつもりなのに、チームは育たず、現場の不満は増える。こうした状態は、本人の能力不足というより「役割設計の不在」で起きやすい現象です。

プレイングマネージャーが増えている組織ほど、課題が増えやすい傾向があります。さらに厄介なのは、プレイングマネージャーと呼ばれていても、実態としてはマネジメントが十分に行われていないケースが多い点です。
つまり、管理職という肩書きはあるのに、チームの成果を上げるための設計・育成・管理が後回しになり、組織課題が増殖していきます。

なぜプレイングマネージャーが組織課題を増やすのかプレイングマネージャー体制が長引くと、現場では次のような“組織の詰まり”が起こりやすくなります。

まず、情報が上下に流れなくなります。会社の狙いや方針が現場に伝わらず、現場の状況も上に届かない。結果として意思決定が遅れ、現場が迷い、組織の一体感が薄れます。さらに、部下への指示・指導が弱くなり、指揮系統が曖昧になります。管理職の役割が形骸化し、現場が「誰の判断で動くのか」を見失いがちです。

ここで大切なのは、「管理職が悪い」と結論づけないことです。多くの場合、管理職本人の問題というより、管理業務をやらせる体制づくりや教育が不足していることが原因です。
言い換えると、会社側が“管理職として勝たせる設計”を用意できていないと、本人が頑張るほどプレイヤー寄りになり、組織の仕組みが弱くなります。

「いつフルマネージャーになるべきか?」判断軸

フルマネージャーとは、実務(個人売上や担当顧客、担当予算)を持たず、マネジメントにフルで時間を使う状態です。

では、いつ移行すべきか。判断軸はシンプルで、**「自分が実務を持たなくても、他の売上・利益が上がる体制になっているか」**です。
営業組織を例にすると、担当顧客を管理職が持たなくても、営業予算を管理職が背負わなくても業績が落ちない状態になっているなら、フルマネージャーへ移行するタイミングです。

もうひとつ、現場で使いやすい基準が部下の人数です。部下が増えるほど、育成・設計・管理の比重が上がり、プレイヤー業務との両立が難しくなります。目安として、部下が5人を越えるあたりからフルマネージャー化が必要になりやすい、という考え方があります。

ここで不安になりやすいのが、「部署のエースを現場から外したら短期の売上が落ちるのでは?」という点です。確かに組織化にはコストがかかります。
ただ、組織化をしなければ会社は維持・拡大できません。長期的には、個人に依存しない体制を作るために、フルマネージャー移行は避けて通れないテーマになります。

フルマネージャー移行の進め方

移行は「気合」や「覚悟」で一気に切り替えるより、会社の目標設計と段階設計で進めた方が失敗しにくいです。本人だけで決めるのではなく、上層部も含めて「どういう状態を作りたいのか」を共有し、目標として置くことが重要です。

マネジメント時間を「定義」する

プレイングマネージャーを続けるにしても、移行に向かうにしても、まず必要なのはマネジメント時間を定義することです。
曖昧にすると、忙しい時期ほど実務が優先され、育成や設計が後回しになります。定義とは、例えば「週のうち何%をマネジメントに使うか」を決め、上司・チームと合意し、仕事の入れ方を変えることです。

段階移行で“実務比率”を落とす

いきなり実務をゼロにするのではなく、段階的に実務比率を下げていきます。例えば「今年はマネジメントに5%多く時間を使う。そのかわり数年後にはフルマネージャーへ移行する」というように、時間をかけて部下を育てるロードマップを作ります。

この発想が重要で、移行の目的は「本人が楽になる」ことではありません。**“部下だけで売上が上がる状態を作る”**ことです。

たとえば営業組織なら、次のような段階が現実的です。
個人案件の一部を後継へ移管し、同席・レビュー中心にする。
チームとしての勝ちパターン(作戦)を言語化し、部下に渡す。
予算・案件の主担当を部下側に移し、管理職は設計・育成・障害除去に集中する。

ここまでできると、チームの人数を増やしても回りやすくなります。マネジメントの質が上がれば、配下人数を増やしながら生産性を上げることも現実的になります。

「部下が稼げる状態」ができるかを現実的に見積もる

少人数だと、上司がプレイヤー業務を手放したときの穴を埋めるのが難しいことがあります。一方で、人数が増え、部下が自走できる状態に近づくほど、管理職が実務を持たずにマネジメントに専念する合理性が高まります。

ここで大切なのは、「自分が持っている案件を守る」発想のままだと、部下が育たず、いつまでも移行できないことです。だからこそ、会社側が「移行することが組織として得だ」と意思決定し、目標として置く必要があります。

“本人の覚悟”ではなく、会社側の目標設計が必要

プレイングマネージャーが続く背景には、本人の意思だけでなく、会社が目標と仕組みを設計できていない問題があります。フルマネージャー移行は、本人の宣言だけで成立しにくいテーマです。むしろ会社が「作らなければいけない」と認識し、そう思わせる設計が必要です。

管理職の立場からすると、ここが一番救いになるポイントです。
「忙しすぎて育成に時間が取れない」のは、根性不足ではなく、役割定義と移行計画の不足で起きている可能性が高い。必要なのは“気合で頑張る”ではなく、次のような会社ぐるみの設計です。

会社としてフルマネージャーを増やす方針を置く。
管理職の役割を、成果(個人)ではなく成果(チーム)で評価できるように整える。
マネジメント時間の定義と、段階移行のロードマップを作る。
組織づくりは順序が大切で、時間がかかる前提で進める。

まとめ:フルマネージャー移行は「組織課題の治療」

プレイングマネージャー問題は、現場の忙しさが原因で起きます。しかし本質は、管理職がプレイヤーに寄ったままだと、情報が流れず、指揮系統が曖昧になり、育成が回らないことで、組織課題が連鎖する点にあります。

だからこそ、フルマネージャー移行は「管理職が楽をするため」ではなく、チームの成果と組織の持続性を上げるための処方箋です。移行の鍵は、
「いつ移行するか」の判断軸を持つ(儲かる体制/部下人数/自分が抜けても成果が出るか)。
マネジメント時間を定義し、段階移行で現実的に実務比率を落とす。
本人の覚悟論にせず、会社側の目標設計として置く。
この3点です。

無料セミナーのご案内

プレイングマネージャー問題の解消や、フルマネージャー移行の進め方を「自社の状況に当てはめて整理したい」という方向けに、管理職・マネジメントの考え方を学べる無料セミナーをご用意しています。現場で“明日から手を打てる設計”に落とし込むヒントを持ち帰ってください。
https://biz-recipe.jp/lp/management-training-seminar/

執筆者

中小企業診断士
(株)3Rマネジメント 代表取締役 https://3r-management.jp/
(株)IoTメイカーズ 代表取締役 https://www.iot-makers.co.jp/

約15年にわたり、事業再生支援等に従事。100社以上の中堅・中小企業に対し、事業再生スキーム構築、経営改善計画作成支援、伴走支援、金融機関交渉等を行ってきた。東京都中小企業再生支援協議会での事業デューデリジェンス業務にも多数従事。金融機関向けや税理士向け研修講師等も多数実施。
2016年に小中学生向けプログラミング教室等を運営する(株)IoTメイカーズを設立し、中小企業経営者としての顔も持つ。同社では、6年間で5つの新規事業を立ち上げた。

目次