デュー デリジェンス(DD)とは?デュー デリの目的や種類を中小企業診断士がわかりやすく解説!
池谷 卓
中小企業診断士
約30年以上にわたり、素材メーカーに勤務し、国内外の生産設備・ライン
設計・保全や生産拠点運営、新事業開拓、経営企画、DX推進等を経験。2023年に中小企業診断士として登録。
デューデリジェンスとは?
デューデリジェンスは『適正な注意義務』とか『慎重な調査』の意味を持っています。また、ケンブリッジディクショナリでデューデリジェンスについて調べてみると『自分自身や他人の財産を安全に保つために、人々が取ると予想される合理的な行動』となっています。少しわかりづらい表現ですが、皆さんが住宅を購入する際の行動に置き換えると理解しやすいと思います。
皆さんが住宅を購入するときには、新聞の折り込み広告や不動産屋の説明など客観性や信頼性が十分でない情報だけで住宅購入を決定することはまずないと思います。多くの皆さんはいくつかの物件に対して、その状態や物件の地域調査や物件に関係する権利の状況、将来の予想価値等を時には不動産の専門家にも調査してもらい、リスクとメリットや価格の妥当性さらには将来のことまでを明確にしたうえで合理的な意思決定をしているはずです。しかしこの時のリスクとメリットや価格の妥当性、将来のことは限定されたものなのにとどまるため、皆さんは完全な合理的意思決定ではなく自らで創造的に解決策を考慮する創造的意思決定を行っているはずです。
中小企業の事業再構築やM&Aにおいて行われるデューデリジェンスでも同様に、買収の意思決定を行うために正確性や網羅性が担保されている情報を基に、リスクとメリットそれに企業価値評価やM&A後のことを明確にしてその確認作業を行います。しかし、この際に重要なことは時間的制約や情報や分析の網羅性の問題もあり、最終的な意思決定は完全合理的でない創造的意思決定となるということです。そこで、意思決定者が有効な創造的意思決定を行うためには、意思決定に必要な情報収集や分析結果を想像して優先順位をつける必要が絶対的に必要です。言い換えれば、意思決定に役立たない優先順位が明確になっていないデューデリジェンスをどれだけ詳細に行っても、有意義な意思決定は行うことはできないと言うことです。
ここまでは、買い手側のデューデリジェンスとその意思決定等の関係について説明いたしましたが、買い手が行うディーデリジェンスには買い手の株主への説明責任としての役割もあります。中小企業の場合は買い手が株主であることが多いと考えられますが、他の株主がいる場合にはそのデューデリジェンスが、株主に対する説明責任として非常に重要であることに留意いただきたいと思います。
また、デューデリジェンスは買い手だけでなく売り手側が行う場合もあります。これをセルサイドデューデリジェンスと呼びます。この売り手側のデューデリジェンスは売り手側、買い手側の両者にメリットがあります。売り側としては、適正な企業価値を把握できることで交渉時の価格や条件等の論点を事前に把握・対応することができますし、買い手側としては売り手側との価格交渉をスムーズに行うことができることやスムーズなデューデリジェンス調査を期待できます。
デューデリジェンスで気を付けること
デューデリジェンスは、適正投入コストや情報漏洩防止、事業環境変化、M&Aの機会損失、取引リスク低減に加え効率的なデューデリジェンスの実施等の観点から期間が制限されており、特に中小企業の場合調査範囲や調査対象書類も限定されているのでその期間は概ね1~3か月程度となっているようです。
このような短期間で意思決定に優位な情報を収集し分析するためには、先にも説明した通り意思決定やM&A後の統合作業(PMI)のために必要な情報や分析に優先順位をつけて取り掛かることに加え、以下の点に留意する必要があります。
- 調査範囲をむやみに拡大したり深追いしたりしない(パレートの法則)
- 不足しているデータについては、他のデータや情報を基に仮説立案をする
- 限られた中でデータの正確性や信頼性を高める努力をする
- ヒヤリング等においては、具体的な質問などにより質の高い回答を得る等
デューデリジェンスの実施時期
デューデリジェンスを円滑に実行するためには、売り手側に買い手側からのインタビューや質問書、提出資料準備、売り手企業における実地調査等の煩雑作業に対して主体的に協力してもらうことが絶対に欠かせません。そのため下図の様にデューデリジェンスはM&Aの実行フェーズに入り、買い手側と売り手側がM&Aについてお互いの合意や意図をまとめた法的拘束力のない合意覚書(MOU)を締結した後に実施されます。
MOU締結後に、後ほど説明しますビジネスデューデリジェンスや財務デューデリジェンス、法務デューデリジェンス等に加え実態BSや修正事業計画を策定するデューデリジェンスプロセスに着手することになります。
デューデリジェンスの種類
デューデリジェンスは、下表の様にいくつかの種類があります。
デューデリジェンスの種類 | 概要・目的など |
ビジネスデューデリジェンス | 買収対象企業の経営状況(ビジネスモデル、取引状況、市場環境、競争力の源泉等)から将来の事業の安定性、将来性等を明確にして、M&A後のシナジーの可能性やその度合いを明らかにする |
財務デューデリジェンス | 買収対象企業の財務実態から、その信頼性や現在、将来のリスクを明確にする |
税務デューデリジェンス | 買収対象企業の税務実態から、現在、将来のリスクを明確にする |
法務デューデリジェンス | M&A実施において致命的な法律上の問題点などを明確にする |
ITデューデリジェンス | M&A後のシステム統合に関するリスクを明確にする |
人事デューデリジェンス | 人事制度、企業文化の実態からM&A後作業やシナジーに対するリスクを明確にする |
- ビジネスデューデリジェンス
ビジネスデューデリジェンスでは、買収対象企業の事業戦略や事業活動、市場環境、競争状況、ビジネスモデル、顧客ベースなどを調査・分析し、企業の事業価値や成長可能性、シナジー創出の可能性等を評価します。場合によっては、経営者やキーマンへのインタビューの結果を加味した評価を実施します。
分析プロセスにおいては、外部環境の様に自社の努力では変化させることができないことよりも、そのような環境変化に対して自分たちで努力し変化することができる内部環境の分析が重要です。
ビジネスデューデリジェンスは財務や税務、法務と並んで非常に重要デューデリジェンスの一つと言われますが、財務、税務そして法務と違いビジネスデューデリジェンスを担う専門家が少ないことや定量的な評価結果を得にくいことなどから、実務の難しさがあると言われています。 - 財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスでは公認会計士の中心的な役割を果たし、税理士等と協力して作業を進めます。
しかし、財務デューデリジェンスは会計監査と異なり会計情報の適正性を判断することが目的ではなく、買い手の経営者が意思決定のために必要な情報を提供することが目的です。そのため買い手企業から提供される貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書、事業計画書などの分析に加え、時には法務、税務デューデリジェンスの結果を加味して、将来の財務面におけるリスクを明確にします。
特に中小企業では実態と貸借対照表や損益分析表が合致していないことが多いことから、財務デューデリジェンスは必須作業と言えます。 - 税務デューデリジェンス
税務デューデリジェンスは、税理士や税務専門の公認会計士が中心になって過去の税務申告内容や納税状況、税制度遵守、未解決の税務問題内容、経営者が把握している税務リスク、会社オーナーなど会社関係者との取引などから、将来における税務リスクを明確にします。
- 法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスは法律の専門家である弁護士が中心的な役割を果たしながら、社会保険労務士、公認会計士などと調査を進めていきます。
法務デューデリジェンスは、締結されている取引先との契約、M&Aに際して必要な許認可の手続き状況、訴訟・紛争の有無、労働関係法規違反の有無、知的財産権の順守などリスクの有無やその程度、将来的な事業に関係する法規改定のリスク有無やその程度等について調査します。そして、その結果をもってM&Aを実行にあたっての問題点の有無や程度やスキーム変更の必要性等を明確にします。 - ITデューデリジェンス
ITデューデリジェンスは、M&A後のシステムの統合における問題の洗い出しを目的として、ITのインフラストラクチャーやハードウエア、ソフトウェア、セキュリティ(機密性、可用性、完全性など)、データ管理、ITに関する人材のパフォーマンス、ベンダー契約などを詳細に分析します。 - 人事デューデリジェンス
人事デューデリジェンスは、従業員に関連するリスクや人事制度・福利厚生制度のちがい、文化の適合性、ハイパフォーマンス人材の把握等スキルの適切な評価を行い、人事面におけるM&A後のリスクを明確にします。
まとめ
今回デューデリジェンスについてご説明をさせていただく中で、デューデリジェンスの意義は、意思決定をするために必要な情報と分析結果の提供であること申し上げました。つまり、意思決定に有効なデューデリジェンスでなければ意味がないと言うことになります。
まとめに際して、デューデリジェンスの質を向上させるためのもう一つポイントを付け加えたいと思います。
情報やデータなどを分析する際に顕在的な面(たとえば貸借対照表、表向きの営業活動・成績など)だけでなく、買収対象企業のビジネスを理解してその裏に潜んでいる潜在的な面、つまり見えない資産をどれだけ分析できるかがデューデリジェンスの質、さらに意思決定の質に大きく影響します。そしてこの様な高い質の意思決定を行うためには、対象企業のビジネス理解に加え、中小企業の経営に関する広く深い知見が必要であり、そのためにはビジネス全般を広く学んでいる優秀な中小企業診断士に相談することが一つの方法と考えられると言うことです。
今回のご説明が、皆様のデューデリジェンスに対するご理解に少しでもお役に立てば幸いです。
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