組織戦略はどう伝えるべきか?経営者が押さえたい「課題定義を旗にする」組織づくりの進め方

経営者や経営陣が組織づくりに着手するとき、つい最初に考えがちなのが「何を変えるべきか」です。
評価制度を見直すべきか。
管理職研修を始めるべきか。
会議体を整えるべきか。
報酬制度を変えるべきか。
採用を強化すべきか。

実際、会社の中には常に多くの問題が存在しています。だからこそ、経営者の頭の中には、改善したいことが次々に浮かびます。ところが、ここでよく起きるのが「正しいことをたくさん考えたのに、会社が動かない」という事態です。

なぜか。
理由は単純です。社員は、10個の課題を同時には飲み込めないからです。

経営者の頭の中では、組織戦略として必要な施策がいくつも見えているかもしれません。管理職育成も必要だし、役割定義も必要だし、育成環境も整えたいし、会議も見直したいし、文化の転換も必要だ。実際、その通りです。けれど、現場にそれを一気に伝えても、人は動きません。情報が多すぎると、社員は「つまり何をすればいいのか」が分からなくなるからです。

だからこそ、組織戦略において重要なのは、正しいことをたくさん並べることではありません。
最初にどの課題を“旗”として掲げるかです。

課題定義がうまい経営者は、社内にある多くの問題をただ列挙しません。
今の自社にとって何が一番大きなボトルネックなのかを見極め、それを全社員が理解できる言葉で示します。すると、その課題定義そのものが旗頭になります。人は旗があると動きやすいからです。逆に旗がないと、問題はたくさん見えていても、それぞれがバラバラに不満を持つだけで終わってしまいます。

経営者にとって組織戦略とは、立派な資料を作ることではありません。
管理職を中心に、全社員が同じ方向を向いて動き始める状態を作ることです。
そのためには、課題の見立てと、その伝え方が極めて重要になります。

目次

組織戦略は「正しい内容」だけでは機能しない

経営者が組織戦略を考えるとき、どうしても中身の正しさに意識が向きます。
もちろん、戦略が大きく間違っていては困ります。けれど、組織戦略に限って言えば、実はそれ以上に大切なことがあります。

それは、社員が納得して動けるかどうかです。

営業戦略やマーケティング戦略であれば、比較的短いサイクルで正解を探せます。反応が悪ければ変える。数字が悪ければ修正する。いわゆるPDCAが回しやすい領域です。
しかし、組織戦略はそうはいきません。人の認識が変わるにも、管理職が育つにも、文化が浸透するにも時間がかかります。数か月で結論が出る話ではなく、2年、3年という単位で育てていくものです。

だからこそ、組織戦略では「完璧な正解」を最初から描き切ることよりも、社員が信じられる大きな柱を立てることの方が重要になります。

たとえば経営者の頭の中に、
「評価制度も変えたい」
「管理職の役割も整理したい」
「若手育成の仕組みも必要だ」
「会議のやり方も悪い」
「部署間連携も弱い」
という5つの論点があったとします。

どれも正しいでしょう。
しかし、それを全部同時に伝えると、現場はこう受け取ります。
「で、結局どれが一番大事なのか分からない」
「何から手をつければいいのか分からない」
「また経営陣が色々言い始めた」

この状態になると、せっかくの組織戦略が、ただの“経営者の考え”で終わってしまいます。

つまり、組織戦略で問われるのは、設計力だけではありません。
翻訳力です。
経営者の頭の中にある複雑な構想を、現場が理解できる一つの課題に落とし込めるかどうか。ここが勝負になります。

課題定義ができると、全社員をまとめる「旗」になる

会社の中に問題が多いときほど、経営者は全部を一気に解決したくなります。
ですが、現実にはそうはいきません。人も組織も、一度に大きくは変われないからです。

そこで必要になるのが、課題定義を旗にするという考え方です。

旗とは何か。
全社員が見上げられる共通のテーマです。
「今、うちの会社はここを変える」
「まずはここを整える」
「これが今期の最重要テーマだ」
と明確に示されたものです。

この旗があると、社員は自分の仕事と会社全体の動きがつながって見えやすくなります。
管理職も、部下に何を優先して伝えるべきかが分かります。
会議でも、施策がその旗に沿っているかどうかで議論できます。
つまり、課題定義が旗になることで、組織に一本の軸が通るのです。

逆に旗がない会社では、全員がそれぞれ別の問題を見ています。
営業は営業の不満を言う。
現場は現場の忙しさを訴える。
管理部は制度の曖昧さを嘆く。
経営者は管理職の弱さを問題視する。
どれも間違っていませんが、共通テーマがないため、会社全体としての推進力が生まれません。

ここで経営者がやるべきことは、
「問題を全部言うこと」ではなく、
「まず最初の旗を一本立てること」です。

たとえば、
「今の最大の問題は、管理職の役割が曖昧で、現場の実行力が落ちていることだ」
「だから今年は、管理職が機能する会社を作る」
と定義できれば、それが旗になります。

あるいは、
「今の問題は、社員が勝ち方を理解していないことだ」
「だからまず、勝つための定義を揃える」
でもいいでしょう。

重要なのは、経営者が自社にとっての“今の一丁目一番地”を見極めることです。
それができると、組織はぐっと動きやすくなります。

「たくさんの問題」から最初に動かす“1個目の石”を決める

組織づくりが進まない会社の特徴のひとつは、課題が多すぎて何から始めればいいか分からない状態です。
実際、多くの会社では問題は一つではありません。むしろ複数が絡み合っています。

管理職が弱い。
若手が育たない。
ムードが悪い。
会議が機能しない。
評価に納得感がない。
戦略が曖昧。
現場任せになっている。
人が辞める。

このような状態で、経営者が「全部大事だ」と考えるのは自然です。
ですが、全部大事だという認識のままでは、誰も動けません。

そこで必要なのが、1個目の石を決めることです。

組織変革とは、大きな岩を一気に動かすことではありません。
最初の小さな石を動かし、その連鎖で全体を変えていくことです。

では、1個目の石とは何か。
それは、今動かせば他の問題にも波及するテーマです。

たとえば、社員が辞める、若手が育たない、ムードが悪い、実行力が低いという問題が同時に起きている会社なら、最初の石は「管理職育成」である可能性が高いでしょう。
なぜなら、管理職が機能すれば、若手との関わり方が変わり、日々のコミュニケーションが変わり、現場の空気が変わり、結果として離職や実行力にも影響するからです。

一方で、管理職以前に会社としての勝ち方が全く共有されていない場合は、最初の石は「戦略の言語化」かもしれません。
何を目指すのか。
どうすれば勝てるのか。
どんな組織でありたいのか。
この土台がないまま管理職研修をやっても、何を実行管理すべきかが曖昧なままになってしまいます。

つまり、1個目の石を決めるときには、単に目立つ問題から選ぶのではなく、最も波及効果が大きいものを選ぶ必要があります。

経営者にとって大切なのは、
「今何が一番困っているか」だけではなく、
「今どこを動かせば、他の問題も連鎖的に改善するか」
という視点です。

なぜ最初から全部伝えてはいけないのか

経営者は会社全体を見ている分、どうしても全体像を伝えたくなります。
それ自体は悪いことではありません。むしろ構想を持っていることは重要です。

ただし、現場に伝える際には順番が必要です。
ここを間違えると、組織戦略は一気に分かりにくくなります。

なぜなら、人は一度に多くの変化を求められると、理解より先に負担感を覚えるからです。
「また何か始まるのか」
「言っていることは分かるけど、仕事が増えるだけではないか」
「結局、全部やれと言われているように聞こえる」
こうした反応が出るのは珍しくありません。

特に中小企業では、現場はすでに忙しいことが多く、余力がありません。
その状態で10個の施策を並べても、前向きには受け止められにくいのです。

だからこそ、経営者の頭の中では全体像を持っていても、伝えるときは一個ずつでなければなりません。

まずこの課題を定義する。
この一個に全員で向かう。
そこが少し整ったら、次の課題を示す。
こうした順序が必要です。

これは、経営者が情報を隠すという意味ではありません。
むしろ逆です。全体像を持ったうえで、社員が飲み込めるサイズに落とし込むということです。

ここができる経営者は、組織戦略を実行可能な形で伝えられます。
逆に、ここができないと、正しいことを言っているのに現場が動かない、という苦しい状態に陥ります。

経営者が課題定義をするときの考え方

では、経営者はどのように課題定義をすればよいのでしょうか。
ポイントは、問題を表面的に捉えすぎないことです。

たとえば、「社員のやる気がない」という言葉はよく出ます。
ですが、これは課題定義としては粗すぎます。
社員のやる気がないように見える背景には、役割が曖昧なのか、目標が不明確なのか、管理職が関われていないのか、勝ち方が見えていないのか、あるいは成長実感がないのか、複数の可能性があります。

同じように、「管理職が弱い」という言葉も便利ですが、そのままでは旗になりません。
何が弱いのか。
実行管理なのか。
部下育成なのか。
当事者意識なのか。
企画力なのか。
ここまで掘らないと、現場は動けません。

良い課題定義とは、
現場が「たしかにそれが今の問題だ」と腹落ちできて、
なおかつ「自分は何を変えればいいのか」が見えるものです。

たとえば、
「今の課題は、管理職が自分の成果で止まっており、チーム成果に責任を持てていないことだ」
「今の課題は、現場が忙しさに追われ、勝つための型が共有されていないことだ」
「今の課題は、会社として何を優先するかが曖昧で、会議も指示も散らばっていることだ」
こうした定義なら、ぐっと動きやすくなります。

つまり、課題定義は“言い換え力”でもあります。
バラバラに見える問題の背後にある共通テーマを見抜き、それを社員が理解できる言葉に翻訳すること。
これが経営者の重要な仕事です。

管理職を動かすには、旗と役割定義がセットで必要

組織戦略の伝え方において、経営者が特に意識したいのが管理職です。
なぜなら、旗を立てるだけでは会社は変わらず、その旗を現場で実装するのが管理職だからです。

経営者が
「今年は管理職が機能する会社を作る」
「今年は勝ち方を揃える」
という旗を立てても、管理職が自分の役割を理解していなければ、現場では何も変わりません。

ここで大切なのは、旗と同時に管理職の役割定義を明確にすることです。

たとえば、課長であれば、
与えられた目標をメンバーに振り分け、進捗を管理し、必要な助言と調整を行い、チームで成果を出すこと。
部長であれば、
経営方針を実現する施策を考え、課長を支援し、組織の中長期的な方向を作ること。

この役割が明確であれば、旗が現場の行動に変わりやすくなります。
逆に、役割が曖昧だと、管理職は「で、自分は何をすればいいのか」が分からず、結局プレイヤーの延長線で仕事を続けてしまいます。

経営者の仕事を楽にするためにも、ここは欠かせません。
管理職が旗を理解し、その旗に沿って現場を動かし、部下を育て、日々の判断を変えていく。
この状態になって初めて、経営者が毎回細かく介入しなくても組織が回り始めます。

組織戦略を伝えるとは、社員に「信じられる未来」を見せること

組織戦略の伝え方を考えるとき、忘れてはいけないことがあります。
それは、社員が知りたいのは施策の一覧ではないということです。

社員が本当に知りたいのは、
「この会社はどこへ向かうのか」
「自分は何を期待されているのか」
「ここで頑張る意味はあるのか」
ということです。

だから、組織戦略の伝え方は、単なる説明ではなく、未来の提示でなければなりません。

こういう会社にしていく。
こうすれば勝てる。
だから、管理職にはこうなってほしい。
だから、社員にはこういう行動を期待する。
だから、この順番で組織を整えていく。

こうした一貫したメッセージがあると、社員は「なるほど」と思えます。
完璧にすべてを理解できなくても、「この方向に進むのだな」と納得できます。
その納得感が、組織戦略においては非常に大きな意味を持ちます。

経営者に必要なのは、全てを一度に語ることではありません。
まず、今の自社に必要な旗を一本立てること。
そして、その旗に沿って最初の石を動かすこと。
さらに、それを管理職を通じて現場へ浸透させていくこと。

この順番で進めることで、組織戦略は初めて“動く戦略”になります。

経営者が今やるべきことは「最初の旗」を決めること

ここまでの内容を踏まえると、経営者・経営陣が今やるべきことは明確です。
それは、組織の問題をたくさん並べることではなく、最初の旗を決めることです。

今の自社の最大のボトルネックは何か。
どこを最初に動かせば、他の問題にも波及するか。
その課題を、社員と管理職が理解できる言葉でどう定義するか。

ここが決まれば、組織戦略は一気に伝わりやすくなります。

そして、その旗に沿って管理職の役割を明確にし、最初の石を一つ動かす。
ここから組織変革は始まります。

経営者がやるべきことを全部背負い続ける会社は、どこかで苦しくなります。
一方で、旗が立ち、管理職が動き、現場がその旗のもとで整い始める会社は、少しずつ経営者の負荷が軽くなっていきます。
経営者が細かく指示しなくても、管理職が判断し、現場が動き、会社が成長していくからです。

組織戦略とは、壮大な資料を作ることではありません。
会社が最初の一歩を踏み出せるように、課題を一つに絞って示すことです。
その一歩が定まれば、二歩目、三歩目は後から続きます。
だからこそ、最初に何を旗として掲げるかが、組織づくりの成否を大きく左右します。

実務に直結する管理職研修について

管理職が機能し、組織の旗が現場で共有されると、経営者が一人で抱え込んでいた仕事は確実に減っていきます。
問題を毎回経営者が拾わなくても、管理職が現場で判断し、チームを動かし、組織が少しずつ自走し始めるからです。

「組織課題が多すぎて、何から手をつければいいかわからない」
「経営方針を伝えているつもりなのに、現場が動かない」
「管理職を動かしたいが、どんな旗を立てればいいかわからない」

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執筆者

中小企業診断士
(株)3Rマネジメント 代表取締役 https://3r-management.jp/
(株)IoTメイカーズ 代表取締役 https://www.iot-makers.co.jp/

約15年にわたり、事業再生支援等に従事。100社以上の中堅・中小企業に対し、事業再生スキーム構築、経営改善計画作成支援、伴走支援、金融機関交渉等を行ってきた。東京都中小企業再生支援協議会での事業デューデリジェンス業務にも多数従事。金融機関向けや税理士向け研修講師等も多数実施。
2016年に小中学生向けプログラミング教室等を運営する(株)IoTメイカーズを設立し、中小企業経営者としての顔も持つ。同社では、6年間で5つの新規事業を立ち上げた。

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