利益はなぜ重要か——「売上があるのに苦しい」を終わらせるための視点
はじめに:「伸びているのにラクにならない」会社に起きていること
「(例)売上が前年比130%なのに、社長の預金残高は横ばい」
「(例)年商3億円、営業利益800万円の黒字でも、月末の支払いに追われている」
※上記はあくまで典型例であり、規模や業種により状況は異なります。
中小企業の経営者が口にしやすい悩みです。
売上は勢いを表す分かりやすい指標ですが、売上だけを追っても会社は強くなりません。
次に見るべきは、利益——そして利益の“中身”と“使い道”です。
利益は「儲かった/儲からない」の結果ではなく、経営を前に進めるための設計図にもなります。この記事では、利益がなぜ重要なのかを、実務で役立つ形で整理します。
1. 利益は「会社の体力」——正しい判断を可能にする“意思決定の余白”
経営には想定外が必ず起きます。
仕入価格の上昇、取引先の方針転換、人材採用の難航、設備故障、市場環境の急変などがあり、外部要因はコントロールできません。
そのとき踏ん張れるかどうかは、会社の体力次第です。体力とは、言い換えると「意思決定の余白」です。
- 余白がある会社:状況が悪化しても「一度立ち止まり、選択肢を比較し、打ち手を選べる」
- 余白がない会社:判断が「とにかく今日を回す」になりやすく、結果としてコストが高くつきやすい
利益が継続して生まれている会社は、一般にこの余白を作りやすい一方で、利益が薄い会社は、少しのズレが資金繰りや取引条件に直結し、急場しのぎの判断が増えやすくなります。
利益は“余裕”を生み、余裕は“精度の高い意思決定”を生みます。
ここが、利益が重要である第一の理由です。
2. 利益は「成長の原資」——攻めの経営は利益からしか始まらない
会社を伸ばすには投資が必要です。
採用・育成、設備、広告、IT、商品開発など、成長の打ち手は基本的に資金を使います。
利益が出ていれば、それを蓄え、投資の原資にできます。ここで重要なのは、利益があると投資の議論が未来志向になる点です。
- 利益がある会社:「将来の稼ぎをつくる」ための投資を検討できる
- 利益が薄い会社:「支出を抑える」「守りを固める」議論に寄りやすく、攻めの手が遅れやすい
競争環境が変わるほど、この差は積み上がります。
利益は単なる結果ではなく、次の成長を作る燃料です。
これが第二の理由です。
3. 利益は「信用」を支える——外部が見ているのは“再現性”と“説明可能性”
金融機関や取引先が見ているのは、「黒字かどうか」だけではありません。
より本質的には、次の2点です。
- 再現性:この利益は来期も出る構造か
- 説明可能性:なぜ利益が出ている(出ていない)のかを経営者が説明できるか
利益が安定している会社は、一般にこの2点を示しやすく、資金調達や条件交渉の場面で話が進みやすくなります。
一方で、売上があっても利益が薄い場合、外部からは「構造に無理があるかもしれない」と見られやすくなります。
もちろん、利益が高ければ常に有利という単純な話ではありません。ただ、利益は外部に対する信用の材料になりやすいのは事実です。
これが第三の理由です。
4. 利益は「意思決定の精度」を上げる——売上では見えない“疲弊する取引”を切り分ける
売上だけを見ていると、「売れている=良い」となりがちです。
ところが実務では、次のようなことが起きます。
- 売れていても利益が薄く、むしろ会社を疲弊させる取引や商品が存在する
- 逆に、売上規模は大きくなくても利益が残り、安定している事業がある
利益を軸にすると、次の問いに答えやすくなります。
- この商品(サービス)は本当に稼げているか
- 値上げが必要なら、どの程度までが採算ラインか
- 広告費や外注費をどこまで使えるか
- 人を増やしたとき、利益はどう動くか
- 内製と外注、どちらが利益を残せるか
利益は、経営を“感覚”から“設計”へ引き上げるレンズです。
ここを押さえると、改善の打ち手が急に具体化します。
5. 利益は「お金」と同じではない——だからこそ“つなげて考える”価値がある
誤解が生まれやすい点ですが、利益が出ていても現金が増えるとは限りません。
黒字なのに資金繰りが厳しい、という状況は十分起こります。だからこそ、利益を理解し、キャッシュとつなげて考える必要があります。
典型的には次の3つです。
① 売掛金(入金の遅れ)
売上は計上されても入金は後ろにずれます。回収が遅い会社は、売上が増えれば増えるほど資金が薄くなる現象が起きます。
② 設備投資(キャッシュが先、費用は後)
購入時に現金は出ますが、費用は減価償却として複数年に分けて計上されます。利益だけ見ていると、資金の減少を見落としやすくなります。
③ 借入返済(元本返済は費用ではない)
利息は費用ですが、元本返済はPLには出ません。黒字でも返済負担が重いと手元資金は減ります。
このように、利益は「成果」、キャッシュは「安全性」を示します。
両方をつなげて捉えられると、「売上を伸ばしても苦しい」状態から抜け出しやすくなります。
6. 「どの利益」を見るかで、改善ポイントがはっきりする
利益には種類があります。粗利(売上総利益)、営業利益、経常利益、当期純利益。どれを見ているかで、問題の場所が変わります。
| 利益の種類 | 何を示すか | 改善の方向性 |
|---|---|---|
| 粗利が弱い | 商品・サービスそのものの稼ぐ力が不足 | 値決め・原価・商品構成の見直し |
| 営業利益が弱い | 本業の採算性に課題 | 販管費の固定化、運用の改善 |
| 経常利益が弱い | 金融取引も含めた総合力に課題 | 利息負担を含めた金融設計 |
| 最終利益が弱い | 一時要因や税負担の影響 | 要因分解の必要 |
「利益を増やしたい」と思ったら、まずどの利益が弱いのかを特定する。それだけで打ち手は具体化します。利益は、改善の方向を指し示すコンパスでもあります。
まとめ:利益は「守り」と「攻め」の両方を支える
利益が重要なのは、会社の体力(意思決定の余白)をつくり、成長投資の原資となり、信用を支え、意思決定の精度を上げるからです。
そして、利益とキャッシュの違いを理解し、利益をお金に変える仕組みまで整えると、経営は一段安定します。
最後に、経営者がすぐ使える確認質問を3つ置きます。
- この会社の利益は“本業”から生まれているか(再現性はあるか)
- 利益が出たとき、現金が増えない“原因”はどこにあるか(売掛・投資・返済)
- 利益を増やすなら、どの利益(粗利/営業/経常/最終)を上げるのが最短か
売上は入口ですが、利益は会社を強くする中核です。利益を軸に経営を見直すことは、数字を細かくするためではなく、会社の選択肢を増やすために行うものなのです。
財務コンサルタントに興味がある方へ
もし「利益を起点に、経営の打ち手まで提案できるようになりたい」「PL・BS・キャッシュのつながりを整理して、現場で使える助言がしたい」と感じた方は、財務コンサルタント養成講座の無料セミナーをご活用ください。
数字の読み方を“支援の武器”に変えるための考え方と、実務での使い方の全体像をつかめます。


