売上の次に見るべき「利益」の話 | 数字が示す“稼ぐ力”を読み解く

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売上は伸びているのに、なぜか楽にならないの正体

  • 「(例)売上が前年比120%なのに、社長の通帳残高は増えていない」
  • 「(例)年商5億円、営業利益1,000万円の黒字なのに、月末の支払いが苦しい」

中小企業の現場では、こうした違和感がよく起こります。

売上は事業の勢いを示す重要指標です。しかし、売上だけでは“強い会社”にはなりません。次に向き合うべきは「利益」。もっと正確に言えば、利益の“中身”と“使い道”です。

この記事では、売上の次に利益をどう捉え、どう使えば「資金繰りが安定し、成長に投資できる体質」になるのかを、実務に落ちる形で整理します。

利益は「会社の体力」だが、体力にも種類がある

要点:利益は“体力”になるが、すべての利益が体力になるわけではない。

利益とキャッシュは違う

損益計算書(PL)に表れる利益は、一定期間の成果を示します。

ただし最重要ポイントは、これです。

利益 ≠ 現金増加

売掛金・在庫・借入返済・設備投資などの影響で、黒字でも手元の現金が増えないことは普通に起こります。

逆に言えば、「利益が出ているのに苦しい」は異常ではなく、構造の問題です。

利益は「原資」になる

一方で、利益が積み上がると貸借対照表(BS)の純資産、とりわけ利益剰余金として会社に残ります。

利益が持つ役割は、次のとおりです。

  • 将来の設備投資の原資
  • 採用・育成の資金源
  • 金融機関からの信頼の基盤
  • 配当の原資

つまり利益は、単なる「結果」ではなく、将来の打ち手を可能にする体力そのものです。

注意:利益には「強い/弱い」がある(=再現性の差)

ここが、多くの経営者が見落とすポイントです。

利益には、わかりやすく言うと“強い利益”と“弱い利益”があります。

  • 強い利益:本業で継続的に稼げる(再現性が高い)
  • 弱い利益:一時的・偶発的(翌期は再現できない可能性)

たとえば、固定資産売却益や保険解約返戻金、特別利益などは「利益」には計上されますが、同じ利益が来期も出る保証はありません。

経営を安定させるのは、あくまで本業で作る強い利益(再現性のある利益)です。

「どの利益」を見ているかで、打ち手は変わる

要点:利益改善は“どの利益を改善するか”を決めないと、施策がぼやける。

PLには複数の利益がある

損益計算書には、複数の利益が段階的に表示されます。

  • 売上総利益(粗利)
  • 営業利益
  • 経常利益
  • 当期純利益

それぞれ意味が違うため、「利益を増やす」とだけ言ってしまうと、打ち手が曖昧になりやすいのです。

それぞれの利益が示す意味

  1. 粗利(売上総利益)
    • 商品・サービスそのものの稼ぐ力です。粗利が薄いと、どれだけ売っても疲弊します。
  2. 営業利益
    • 粗利から販管費(人件費、広告、家賃など)を引いた利益。本業の採算性そのものです。改善の主戦場になりやすい領域です。
  3. 経常利益
    • 営業利益に、受取利息・支払利息など営業外損益を加味した“平常時の実力”に近い利益。金融機関が重視しやすい利益でもあります。
  4. 当期純利益
    • 税金等を差し引いた最終利益。ここが積み上がると利益剰余金となり、会社の土台が厚くなります。

よくある失敗:いきなり「最終利益」を増やそうとする

実務でよくある失敗は、「最終利益を増やしたい」と言って、いきなり経費削減や値上げに走ることです。

打ち手は次の順番で切り分けると、急に具体化します。

粗利 → 販管費 → 金利負担

(どこに課題があるかを分解してから、施策を打つ)

まず確認したい「利益の3つの診断」

要点:「売上は伸びているのに楽にならない会社」は、だいたいここで詰まっている。

診断① 粗利は十分に取れているか(稼ぐ力の源泉)

粗利が薄いと、どれだけ売っても疲弊します。

ここで重要なのは、粗利改善が「値上げ」だけではないことです。

  • 低粗利商品が売上の中心になっていないか(商品構成)
  • セット化・オプション化で単価を上げられないか
  • 仕入条件・外注条件に見直し余地はないか
  • 商品別に粗利が見えているか

粗利は、努力量よりも設計で改善する余地が大きい領域です。

診断② 販管費が固定化していないか(利益の漏れ)

販管費は固定費化しやすい領域です。人件費、家賃、外注費、サブスクなど、売上が落ちても下がらない費用が積み上がると、営業利益が崩れます。

実務では、まず費用を2種類に分けます。

  • 変動費:売上に連動して増減する費用
  • 固定費:売上に関係なく出ていく費用

具体的な見える化の方法として、固定費の一覧を作り「売上がゼロでも出ていく費用」を可視化します。そのうえで、例えば「売上が30%落ちても耐えられるか」を確認します。

固定費は「悪」ではありません。問題は、固定費が増えているのに、利益構造が追いついていないことです。

診断③ 利益がキャッシュに変わっているか(変換効率)

ここが最も見落とされやすいポイントです。

利益が出ているのに資金繰りが苦しい会社は、利益がキャッシュに変わる“通路”が詰まっている、あるいは“速度”が遅い状態です。

この「変換速度」を上げることが、資金繰り改善の本質です。

利益が出ていてもお金が増えない3つの理由

要点:「黒字なのに苦しい」は、原因が3つに絞れる。

理由① 売掛金が回収されていない(利益はあるが現金が来ない)

売上計上と入金にはタイムラグがあります。BtoBでは「月末締め・翌月末入金」が一般的で、売上が立っても入金は後ろにずれます。

ズレが大きいほど、売上が伸びるほど資金繰りが苦しくなることがあります。

  • 対策の方向性
    • 請求の早期化
    • 回収サイトの短縮交渉
    • 与信管理の強化
    • 売掛金の滞留を可視化

ポイントは、「売上を増やす」より先に利益をキャッシュに変える仕組みを整えることです。

理由② 設備投資はキャッシュが先、費用は後(PLが軽く見える)

設備投資は購入時にキャッシュが大きく出ますが、PLには減価償却として複数年に分けて費用計上されます。

つまり、「お金は出たのにPLに出ない/PLの費用は小さく見える」というズレが起きます。

■対策の方向性

投資を止めるのではなく、投資と資金調達をセットで設計します。

  • 投資後に粗利・営業利益がどれだけ増えるか(回収計画)
  • 自己資金・借入・補助金の組み合わせ
  • 返済に耐えるキャッシュ創出の見通し

借入金の返済は費用ではない(黒字でも資金が減る)

利息はPLの費用ですが、元本返済はPLには計上されません(BS上の借入金が減るだけです)。

そのため、黒字でも返済が重いと資金繰りが厳しくなります。

■対策の方向性

「利益」だけで判断せず、営業キャッシュフローと返済余力を確認します。

  • 本業でキャッシュを安定して生めているか
  • 年間返済額に対して、営業キャッシュフローが十分か
  • いずれ無理が出る構造になっていないか

利益改善の優先順位——迷わず動ける点検順

要点:利益改善は“順番”を間違えると空回りする。

優先順位① 粗利率(値決め・原価・商品構成)

粗利が薄いと、販管費を削っても限界が来ます。

セット化、仕入条件見直し、低粗利商品の比率調整など、設計の見直しが第一です。

優先順位② 販管費の固定化(固定費と変動費の分解)

固定費は「増えた理由」が説明でき、売上が落ちても耐えられる水準を意識します。

固定費の見える化(一覧化)を行うだけで、意思決定が一段クリアになります。

優先順位③ キャッシュへの変換(売掛金・在庫・返済の通路整備)

利益が出ても苦しい原因の多くはここにあります。回収・在庫・返済を整えると、「黒字なのに苦しい」が解消しやすくなります。

実務で見るべき5つの指標

利益改善の進捗を測るために、最低限これだけは確認しましょう。

  • 粗利率(%):商品・サービスの稼ぐ力
  • 固定費比率(簡易):固定費÷売上高(売上が落ちた時の耐性)
  • 売掛金回収サイト(日数):利益がキャッシュに変わる速度
  • 営業キャッシュフロー:本業でキャッシュを生む力
  • 借入金返済額÷営業キャッシュフロー:返済の重さ

※目安として、1倍を超える状態が続く場合は、返済設計の見直し余地があります

ここまで整うと、

「売上が伸びるほど苦しい」体質から「売上が伸びるほど強くなる」体質へ変わります。

強い会社は「売上→利益→キャッシュ→蓄積」の流れが整っている

売上は入口、利益は稼ぐ力、キャッシュは安全性、蓄積は将来の選択肢。

利益は“出して終わり”ではなく、会社に蓄積され、次の打ち手に変換される存在です。

この流れが整うと、次の変化が起きます。

  • 金融機関の評価が安定する
  • 投資判断の精度が上がる
  • 経営判断がブレにくくなる

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執筆者

中小企業診断士
(株)3Rマネジメント 代表取締役 https://3r-management.jp/
(株)IoTメイカーズ 代表取締役 https://www.iot-makers.co.jp/

約15年にわたり、事業再生支援等に従事。100社以上の中堅・中小企業に対し、事業再生スキーム構築、経営改善計画作成支援、伴走支援、金融機関交渉等を行ってきた。東京都中小企業再生支援協議会での事業デューデリジェンス業務にも多数従事。金融機関向けや税理士向け研修講師等も多数実施。
2016年に小中学生向けプログラミング教室等を運営する(株)IoTメイカーズを設立し、中小企業経営者としての顔も持つ。同社では、6年間で5つの新規事業を立ち上げた。

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