税務申告書(別表)を活用した中小企業の財務分析~ 株主構成・欠損金・経営計画策定時の着眼点 ~
中小企業の財務分析において、貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)だけでなく、「税務申告書の別表」も非常に重要な資料です。
とくに、事業承継やM&A、経営改善支援を行う場面では、別表に記載された情報をもとに、企業の潜在的なリスクや将来の可能性を的確に読み解く力が求められます。
本記事では、士業・経営コンサルタント・保険募集人の皆様が、財務コンサルティングを行う際に押さえておきたい別表の分析ポイントを、「別表二」「別表七」「別表五(一)」を中心に解説します。
別表とは?
税務申告書の「別表」とは、法人税申告書に添付する明細書のことです。
令和7年4月以降に提供した法人税等各種別表関係(令和7年4月1日以後終了事業年度等分)|国税庁
主要な別表
別表二:同族会社等の判定に関する明細書(株主構成) 【別表二】pdf
別表七(一):欠損金の損金算入に関する明細書(繰越欠損金) 【別表七(一)】pdf
別表五(一):利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書(資本変動) 【別表五(一)】pdf
これらの別表には、決算書だけでは読み取れない重要な情報が記載されています。
「別表二」から読み解く株主構成のリスクとM&Aへの影響
別表二とは?
「別表二」には、株主ごとの出資比率や出資額が記載されており、企業の支配構造を知るうえで非常に重要な資料です。
記載内容
- 株主(出資者)の氏名・住所
- 続柄(同族関係)
- 株式数・持株割合
- 同族会社の判定
株主構成は”ガバナンス構造”の鏡
別表二のチェックポイントは、次のような点です。
- 誰が何%保有しているか(支配的な個人/法人の有無)
- 経営者以外に過去の経営陣(前社長など)が残っていないか
- 相続未処理のまま株式が分散していないか(例:兄弟姉妹が株主)
- 関係会社や持株会社の持分比率が過半数を超えていないか
実務での読み解き方
例①: 創業社長が100%保有
たとえば、創業社長が100%株式を保有している場合、経営判断が早くワンマン経営になりやすい一方で、万が一の事態に備えた株式承継対策が急務になります。
- リスク
- 相続発生時に株式が法定相続人に分散
- 議決権が複数の相続人に分かれ、意思決定が困難に
- 相続税の納税資金不足
- 対策
- 生前の株式承継対策
- 遺言による指定
- 持株会社の活用
例②: M&Aでの重要性
また、M&Aを検討する際も、株主構成は買い手企業にとって非常に重要な判断材料です。株主が多岐にわたると交渉の手間がかかり、場合によっては譲渡の実現性が低下することもあります。
こんなケースは要注意
ケース①: 旧経営陣が株式の一部を持ち続けている
- リスク
- 意思決定の遅れ
- 経営方針の不一致リスク
- 現経営陣との対立
ケース②: 名義株・相続未処理株が混在
- リスク
- 法的整理に時間がかかる
- M&Aの障害になる
- 株主の所在が不明
財務コンサルタントの付加価値
このようなケースを把握し、税理士では見逃されがちな「資本リスク」を可視化することが、財務コンサルタントの付加価値です。
提供できる価値
- 株主構成のリスク診断
- 事業承継の障壁の発見
- M&A実現可能性の評価
- 株式集約のアドバイス
「別表七」から読み取る欠損金と今後の黒字化への布石
■別表七(一)とは?
別表七(一)は、「欠損金の繰越額」とその消化状況を確認できる資料です。
■記載内容
- 各事業年度の欠損金額
- 当期控除額(黒字と相殺した金額)
- 翌期繰越額
- 繰越期限
■欠損金とは?
欠損金(繰越欠損金)とは、過去の赤字の累積で、一定の年数にわたって将来の黒字(課税所得)と相殺することで法人税等の負担を軽減できる、税務上の権利です。
■重要ポイント
- 繰越期間:現行税法では最長10年間
- 控除順序:古い事業年度の欠損金から使用
- 節税効果:黒字と相殺することで法人税が減額
■欠損金の”残高”と”利用状況”に注目
特に以下の点が重要な確認ポイントとなります:
- 繰越されている欠損金の金額
- 確認内容
- 当期末時点でいくら残っているか
- 将来の黒字と相殺できる金額はどのくらいか
- 確認内容
- 意味
- 残高が多い → 将来の節税余地が大きい
- 残高が少ない → 節税効果は限定的
- 欠損金のうちあと何年繰越可能か(利用期限)
- 確認内容
- 最も古い欠損金の期限はいつか
- 期限内に使い切れるか
- 意味
- 期限が近い → 早期の黒字化が必要
- 期限が遠い → 計画的な活用が可能
毎年どれくらい黒字で”食い潰している”か(回収見込み)
- 確認内容
- 当期控除額はいくらか
- このペースで使い切れるか
- 意味
- 順調に控除 → 黒字化が進んでいる
- 控除ゼロ → 赤字が続いている
■実務での活用
ポジティブな見立て
黒字化が見込まれる企業であれば、欠損金の活用によって納税を抑えながら内部留保を増やせるというポジティブな見立ても可能です。
●活用例
- 繰越欠損金: 5,000万円
- 今後3年の利益見込: 各年1,500万円
- 3年間で4,500万円の欠損金を使用
- その間、法人税等の負担がほぼゼロ
- 節税効果を設備投資や人材採用に活用
ネガティブな見立て
逆に、毎年微小な黒字しか出せておらず、繰越期間の終わりが近い場合は、繰越期限内に使い切れず、欠損金が期限切れで消滅し、税負担軽減効果を得られなくなります。
●懸念例
- 繰越欠損金:8,000万円
- 最古の欠損金期限:あと3年
- 今期黒字:200万円
- このペースでは期限内に使い切れない
- 欠損金が期限切れで消滅するリスク
- 早急な黒字化が必要
■財務支援・経営改善時の活用
① 経営計画策定時
3~5年スパンの経営計画策定時に、利益と相殺できる金額の把握
●活用方法
- 計画期間内の利益目標を設定
- 欠損金の消化シミュレーション
- 税負担の見通しを立てる
② 金融機関との協議時
「損失を埋める前提」か「税金支払いの回避策」かを明確に
●説明のポイント
- 欠損金があることで当面の税負担がない
- その分、返済原資に充てられる
- 黒字化の見通しと欠損金消化の整合性
③ 補助金申請やM&A時
「欠損金の税効果がどの程度見込めるか」を示すことで、相手の理解と納得を得やすくなります。
●活用場面
- 補助金申請:計画の実現可能性を示す
- M&A:買い手にとっての節税メリットを説明
- 融資審査:実質的な資金繰りを説明
「別表五(一)」の資本金変動から、増資・減資の履歴を追う
■別表五(一)とは?
「別表五(一)」は、資本の増減や利益処分・繰越など、純資産の内部変動を追跡する資料です。
■記載内容
- 利益積立金額(≒税務上の繰越利益剰余金)
- 資本金等の額
- 毎期の増減
- 利益処分の状況
■増資・減資の履歴から経営戦略の背景を探る(別表五(一)から読み取れる情報)
① 毎年の繰越利益の増減
●確認内容
- 繰越損益金が増えているか減っているか
- 黒字が続いているか、赤字が続いているか
●意味
- プラスに増加 → 利益の蓄積が進んでいる
- マイナスのまま → 累積損失が残っている
② 資本金の変化(例:第三者割当増資、減資)
●確認内容
- 資本金が増加している年はないか
- 資本金が減少している年はないか
●意味
- 増資 → 外部からの資金調達または準備金の資本組入
- 減資 → 欠損填補による債務超過解消または中小企業税制適用のため
③ 剰余金の処分状況
●確認内容
- 配当を出しているか
- 積立金を取り崩しているか
●意味
- 配当あり → 株主還元を行っている
- 積立取崩 → 財務的に厳しい状況
■実務での読み解き方
例①: 増資の履歴
たとえば、増資している年があれば「外部からの資金調達」または「準備金の資本組入」などが行われた可能性があります。
●背景の推察
- 新規事業進出のための設備投資
- 金融機関からの要請(自己資本充実)
- 債務超過解消のため
例②: 減資の履歴
反対に減資していれば「欠損填補による債務超過の形式的解消」や「資本金1億円以下にして中小企業税制の適用を受ける」などの目的が考えられます。
●目的
- 欠損填補:累積損失を解消
- 税制適用:軽減税率・交際費枠の拡大
- 外形標準課税の回避
例③: 利益剰余金のマイナス
また、利益剰余金(別表五(一)の利益積立金額)がマイナスのまま長期間続いている企業では、過去の損失を埋めきれていない実態が見えてきます。さらに、純資産合計がマイナスの場合は「債務超過」状態であり、財務的に脆弱な状況といえます。
●リスク
- 財務体質が弱い
- 金融機関からの評価が低い
- M&Aでの企業価値が低下
経営計画・改善計画における税務申告書の活用上の注意点
中小企業支援の場では、「早期経営改善計画」や「ものづくり補助金」など、経営計画の作成が求められることが多くあります。その際、決算書だけでなく、税務申告書の整合性と信頼性も求められます。
■金融機関・支援機関が見るポイント
① 計画上の利益見通しと、過去の欠損金・黒字実績の整合性
●確認内容
- 計画の利益目標は現実的か
- 過去の欠損金を考慮しているか
- 欠損金の消化シミュレーションがあるか
●チェック
- 別表七(一)の欠損金残高を把握しているか
- 計画期間内に欠損金を使い切れるか
- 税負担の見通しは適切か
② 株主構成が安定しており、経営方針の意思決定が円滑に行える体制か
●確認内容
- 株主構成に問題はないか
- 意思決定に支障をきたす株主はいないか
●チェック
- 別表二で株主構成を確認したか
- 旧経営陣が残っていないか
- 相続で分散していないか
③ 増資や外部資本が今後必要になる可能性
●確認内容
- 自己資本が不足していないか
- 増資計画は現実的か
- 資金調達の見通しはあるか
●チェック
- 別表五(一)で過去の増減資履歴を確認したか
- 債務超過になっていないか
- 増資の必要性を検討したか
■M&A支援での活用
また、M&A支援の場面でも、「株主の過半数が承諾すれば譲渡できる」かどうか、「譲渡制限株式の定款記載」など、税務書類から読み取れる情報は多くあります。
●M&Aでの確認事項:
- 別表二:全株主の同意を得られるか
- 別表七(一):欠損金の税効果を買い手に説明できるか
- 別表五(一):債務超過の有無を確認
まとめ: “財務の裏側”を別表から読み解ける士業は重宝される
税務申告書の別表は、単なる申告書類ではなく、「経営者の意図や資本政策、過去の失敗と再建の軌跡」が詰まった重要資料です。
■財務コンサルタントの付加価値
税理士や経理担当者が見逃しがちな観点に目を向け、経営に踏み込んだ提案ができる士業・コンサルタントは、企業からも金融機関からも頼られる存在となります。
■提供できる価値
- 別表から「見えないリスク」を可視化
- 事業承継・M&Aの実現可能性を診断
- 経営計画の信頼性を数値で裏付け
- 金融機関との交渉材料を整理
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