金融機関が見るBSの評価ポイントとは― 現金、売掛金、粉飾のサインを見抜けるか ―

財務諸表、とくに貸借対照表(Balance Sheet:以下、BS)は、金融機関にとって企業の健全性を評価する最重要資料です。BSは「今その会社に何がどれだけあるか」「どこからお金を集め、どう使っているか」を一覧で示しており、まさに会社の”健康診断書”とも言える存在です。

この記事では、BSのどこを金融機関が見ているのか、そして士業やコンサルタント、保険募集人が中小企業経営者を支援するうえで押さえておくべきポイントについて解説します。

目次

現金残高の実態とBSの乖離

BSの資産の中でも、もっとも「見た目の安心感」を与えるのが「現金及び預金」ですが、実際の手元資金と一致しないケースが意外と多く見られます。金融機関はこの点を非常に重視しています。

例えば、こんなズレが起きていないか:

  • 帳簿上では多額の現金があるが、実際にはすぐに使えない預金(定期預金や拘束口座)である
  • 帳簿に記録されていない取引があり、実態の資金の流れが把握できていない
  • 帳簿外の現金管理や、社長個人の資金との混在が発生している

こうした不透明な現金管理は、金融機関からの信頼を著しく損ねます。近年、金融機関の審査基準は帳簿の数字だけでなく、実態を重視する方向に進化しており、「帳簿の数字」と「現場の実態」がズレていないかを細かくチェックしています。

士業やコンサルタントは、BSの「現金及び預金」科目の数字をそのまま鵜呑みにせず、資金繰り表や現預金出納帳と突き合わせるなど、実態に即した財務分析を心がけましょう。

売掛金や受取手形の増加に潜む粉飾リスク

金融機関は、売掛金や受取手形の増加にも注目しています。これらの科目は本来、売上活動の中で発生するものですが、架空売上や不正会計の温床となることがあります。

粉飾が疑われる典型的な兆候

  • 売上が急拡大したにもかかわらず、実際の入金が追いついていない
  • 売掛金が前年度比で異常に膨らんでいる
  • 回収サイトが業種標準を大きく超えて長期化している(例:製造業で90日以上、小売業で60日以上など)
  • 売掛金の中に、実際には取引のない架空の得意先が含まれている

特に「期末間際に急に売掛金が増加している」「受取手形の回収が滞っている」といった場合には、金融機関は架空売上の可能性を疑います。

これは決算書だけを見ていては判断できません。

月次試算表の動き、債権管理台帳、取引先との契約内容なども含めた包括的なチェックが必要です。

中小企業の多くは経理担当者が少数で属人的な処理が行われがちです。

経営支援に関わる士業・コンサルタントや保険募集人が伴走支援をする場合は、現場に立ち入り、実際の回収状況や滞留債権のリスクについて丁寧にヒアリングする姿勢が求められます。

粉飾の見抜き方と金融機関の警戒ポイント

金融機関は、以下のような異常値・不整合に対して特に敏感です。

これらは単体では不自然でなくとも、複数の兆候が重なったときに「粉飾ではないか」との疑念が生じます。

金融機関が重視する粉飾のサイン

  • 営業利益が急増しているにもかかわらず、営業キャッシュフローが伴っていない
  • 減価償却費が前年から急減しているが、新たな設備投資も資産売却もない(意図的な償却計上の回避の可能性)
  • 売掛金・棚卸資産・短期貸付金のいずれかが前年比で大幅に増加している
  • 税引前利益に対して法人税等の金額が通常の実効税率から大きく乖離している
    ※ただし、繰越欠損金の控除や税額控除の適用など、正当な理由がある場合もあります
  • 営業利益が黒字にもかかわらず、営業キャッシュフローが継続的にマイナスになっている

金融庁の「知ってナットク!(事例集)」(金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕事例集)では、中小企業の経営実態を踏まえた融資判断の重要性が示されており、金融機関は表面的な数字だけでなく、企業の実態を評価することが求められています。

中小企業における決算書の過度な調整は、経営者の「業績を良く見せたい」という心理から生じることが多く、その背景には金融機関や取引先との関係維持への不安があります。

経営支援に関わる士業・コンサルタント等がこの傾向を理解し、経営者との信頼関係を築くことで、リスクの芽を早期に摘むことが可能です。

見た目のBSでは分からない「評価の本質」

銀行が見るのは数字の”表面”だけではありません。例えば以下のような定性的な評価も重要視されます。

金融機関が注視する定性的なポイント

  • 売掛金の中に「関連会社」や「社長の知人企業」が多くないか
  • 現金残高に対して異常に高い交際費がPLに出ていないか
  • 社長への短期貸付金がBSに残ったままになっていないか
  • 借入金の返済原資が利益から確保できているか

このような視点からBSを見ていくと、企業の経営実態がより鮮明になります。

経営支援に関わる士業・コンサルタント等がこうした視点を持つことで、金融機関との面談時に経営者の信頼性を高めるアドバイスができ、融資審査でも有利に働く可能性が高まります。

まとめ: BSを「経営改善の出発点」として活かす

金融機関がBSを見る理由は単に「お金を貸せるか」を判断するためだけではありません。BSはその企業の経営スタンス・リスク・成長性を示す”履歴書”であり、”健康診断書”です。

財務コンサルタントとして中小企業を支援するには、BSの裏に隠れた経営者の意図や経営課題を見抜く力が求められます。

数値の”異常値”に気づき、なぜその数値になっているのかを経営者に丁寧に問いかけることが、真の財務支援につながります。

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執筆者

中小企業診断士
(株)3Rマネジメント 代表取締役 https://3r-management.jp/
(株)IoTメイカーズ 代表取締役 https://www.iot-makers.co.jp/

約15年にわたり、事業再生支援等に従事。100社以上の中堅・中小企業に対し、事業再生スキーム構築、経営改善計画作成支援、伴走支援、金融機関交渉等を行ってきた。東京都中小企業再生支援協議会での事業デューデリジェンス業務にも多数従事。金融機関向けや税理士向け研修講師等も多数実施。
2016年に小中学生向けプログラミング教室等を運営する(株)IoTメイカーズを設立し、中小企業経営者としての顔も持つ。同社では、6年間で5つの新規事業を立ち上げた。

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