「失敗の本質」から学んだ戦略策定や課題解決で気にすべきポイント

【執筆者】
中小企業診断士 池谷 卓
技術士

約30年以上にわたり、素材メーカーに勤務し、国内外の生産設備・ライン
設計・保全や生産拠点運営、新事業開拓、経営企画、DX推進等を経験。2023年に中小企業診断士として登録。

この内容を読んでいる多くの方は、個人的にまたは組織の中で「戦略」を策定したり、推進するための計画を立案したり、中には主体的に推進した経験をお持ちと思います。そして、どうしたら良い「戦略」を立案できるのかなと思い悩んでいる方も多いのではないでしょうか?

今回は、日本軍の戦い方の失敗を解き明かした名著である「失敗の本質」をコンサルタントの立場から解説した書籍「超入門 失敗の本質」著者 鈴木 博毅 (ダイヤモンド社)から、良い「戦略」を立案するために気を付けるべきポイントについて、ご紹介させていただきます。

目次

日本的戦略の特徴と対応

1980年代、日本は「JAPAN AS No.1」と言われて、特に製造業などの分野を中心にして世界市場を怒涛の勢いで席捲していました。具体的には、自動車、半導体、電化製品などがそれに相当するかと思います。また、金融や商社などそれら業界の発展を支える分野も、大きく成長し続けていましたが、一方で次の一手が見えないとも言われていました。


 この状況をマラソンに例えて、「日本の前を走るランナーがいなくなった、これからどのどうするのか、どこへ行くのかを決めることが課題」などと、マスコミなどが盛んに言っていたことを記憶しています。
 その後、日本経済は失われた何十年(10年が20年、そして30年になりました)という様に、以前のような輝きを取り戻せない状況にあります。

その原因の一つは、「日本的戦略」にあるのではと言われることがあります

 著者は、「日本的戦略」の問題点(特徴)をいくつ指摘していますが、その一つが立案のプロセスにあるとしています。日本的戦略の立案プロセスは、体験的な学習の中において偶然的に発見されると、ホンダが米国でスーパーカブを売り出す際のエピソードを使って説明しています。

 事例では、ホンダの社員が休日にスーパーカブを乗り回して気晴らしをしている姿を、米国人がみて「面白い!」と言って、そこに新たなニッチ市場を発見して、米国人向けにカスタマイズしたスーパーカブを発売して、ビジネスとして大成功を収めたという話です。

 ホンダの事例は、それだけをとらえて戦略策定に問題が生じるとは考えられません。何せ、この事例、別の角度からは、創発的な戦略とか創発的なイノベーションと評価されているからです。

 戦略策定プロセスにおいて問題があるとすれば、本書でも指摘のあるように、「何故発見できたのか?」、「どうして成功したのか?」が曖昧であることではないかと思います。つまり、発見した「戦略の本質」を理解していない、言い換えると「敷衍化」できていない、さらに「戦略化」できていないということです。

 本書は、この様な戦略化できない組織学習は、得てして組織の中で本質的でない「型」や「主義」として伝承される傾向を指摘しています。そして、それは戦略の再現性を担保できないばかりではなく、変化への対応も非常に難しくすると考えられます。

 以上のことは、「JAPAN AS No.1」のころの日本企業が、必ずしも戦略が先になくとも、前を走るランナーを見ながら経験の中で戦略を発見するだけで、ビジネスの世界において成功を収めることができたという事実、そしてその後の失われた何十年が証明している様に思います。

 逆に、欧米は「何故競合は成功しているのか?」、「何が本質なのか?」と言うことを曖昧にせず、場合のよっては学術的なテーマとして扱い、「敷衍化」して「戦略化」していることがなんと多いことかと思うことがたくさんあります。代表的な例では、「マーケットシェア追及」や「かんばん方式」などがそれに相当するのではないでしょうか?
 
 ご存じの通り、前者は1960~70年頃に日本企業が成功体験を基に進めていた「低営業利益でもシェア拡大を目指す」と言う行動です。そして、米国はそれを成功事例にとどめずに、一つのビジネス戦略として敷衍化していました。また後者に対して米国は、「どうして在庫が減ることで…利益が生まれるのか?」を突き詰め、それは「時間の戦略」であると敷衍化しています。前者では、アマゾン等がその戦略を実行していますし、後者においては敷衍化により製造業以外の業種においても戦略が展開されています。

 2000年に入ってからよく耳にする「デザイン思考」も、黎明期のトヨタやソニーが何故素早くニーズにあった製品開発できるのかを分析·学習したことが、その源流の一つであると言う話もあります。
 

日本的解決方法の特徴

 失われた10年が過ぎたころからでしょうか、「現場力」や「匠」と言う言葉を目にすることが多くなった気がします。 これはまさに、日本の製造業などの現場の組織力や、そこで働いている方々の素晴らしい熟練の技を差別化の大きな源泉として認め、さらに磨いていくことや伝承していくことを良しとした動きであったと思います。

本書には、戦時下の日本軍では現場に対して鍛錬を積むことを求め、現場もそれに応え、例えば夜間に8km先の軍艦の動きを察知するなど、人間の極限とも思える能力を身に着けた例を紹介しています。
一方、米軍は、熟練者でなくともできるシステムや、武器の開発を行ったとしています。例えば、夜間に8km先の軍艦を察知する現場ではなく、レーダを開発して誰でも、どんな環境でも軍艦の察知ができると言うようなことです。

 もちろん、現場の方々の高い技能は差別化の源泉と言うことができます、それは本書からも、このような強い現場は、「JAPAN AS No.1」の様に環境が比較的変化しない場合には、ビジネスプロセスなどを改善することで差別化を生み出すことができると、考えられるからです。

 みなさんは30cm定規を与えられて、髪の毛の太さを測ってくださいと言われたらどうしますか?
多くの日本人は一生懸命0.11mmだとか、0.092mmだとかそれこそ超人的な能力を発揮して測定するのではないのでしょうか?
 しかし、そのような行動の先には、デジタル技術やデジタルマイクロメーターを開発等の大きな変革は生まれにくいと考えられます。

 一方、米国は現場に課題解決を任すのではなく、新たな測定技術としてのデジタル測定技術の基礎開発、応用開発を行ってデジタル測定を可能にしました。
 
 そして、その技術は、現場の課題解決だけにとどまらず、新たな産業の創造までも成し遂げているところに、その本質的なすごさがあると感じます。

 実際私もビジネスを進める中で、米国の競合などの現場だけに頼らない本質的な課題解決力、実行力の強さに驚かされることが多々あります。

 近頃、Chat-GPTが話題になっていますが、身近な話題はどちらかと言えば「人の作業を補助する」こと、つまり「1を10にする」にする改善に行きがちですが、実は開発している開発者の戦略は、「0を1」にするなんてことではないかと、思ったりもしてしまいます。

まとめ

そう言っても、日本的な戦略を理解することは難しいなと思う方もいると思います。かくして私もその一人です。
しかし、皆さんがよくご存じの、現場の改善で汎用的に利用しているP,D,C,Aサイクルで考えると、Pで戦略を策定せず、Dで戦略を偶然発見して、Cで敷衍化、戦略化せず、Aで展開もできないと考えると、理解が進むかもしれません。

 日本的な戦略の問題を解決するには、P,D,C,Aサイクルの“C”を必ずやること、そして、これは現場改善のP,D,C,Aを回すことと何ら変わらないと考えると、少し肩の力を抜いて行動できませんか?

 そして、日本的解決方法についても、先述した例の様に身近なことに置き換えると理解しやすく、比較的簡単に改善を図ることができると考えます。

 本書が述べていることは、少子高齢化の中で働く人が多様化する日本の組織の中で、これまで以上に重要になっていくと思います。
 何せ、その当時の米国はすでに多様化が進んでいて、そのような戦略や戦術、オペレーションの策定と実行や技術開発を進めたのでしょうから….。

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この記事を書いた人

中小企業診断士
技術士

約30年以上にわたり、素材メーカーに勤務し、国内外の生産設備・ライン
設計・保全や生産拠点運営、新事業開拓、経営企画、DX推進等を経験。2023年に、中小企業診断士として登録。

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