人事評価の評価者が知っておくべきこと | Part1 全体概要編

【執筆者】
社会保険労務士 / 中小企業診断士 鳥飼 祐介
経営人事総合事務所クリエイションハイブ 代表


大学卒業後、事業会社の人事部業務全般に従事し、総合コンサルファームに転職後は人事労務を専門にコンサルティング業務を行う。
主に、株式上場(IPO)を目指す企業の労務管理体制構築や、人事制度構築の支援実績を積む。
2021年8月独立後の現在、専門性の高いノウハウを活かし、プライム上場企業から中小零細企業まで、様々なお客様を相手に顧問活動を行う。企業の人材確保が難しい中、現場に入り込んだハンズオン(半常駐)型の改善支援を積極的に展開している。


本シリーズは三部制で、上記の動画は「Part.1」です。

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目次

はじめに

「人事評価の評価者が知っておくべきこと」と題して、第1回は全体概要編について解説します。

人事評価の評価者になったけれども、何を見ていいのか、どうすればいいのか全くわからない、あるいは会社で人事評価制度を導入したいが全体像が全くわからないといった方にとって参考になれば幸いです。

人事評価の目的

人事評価の目的として一般的に重視されるのが「公平な処遇決定への反映」と「昇進・配置検討の参考材料」ですが、「社員の育成」や「経営方針・経営戦略の伝達と実践」についても、長期的な会社の運営を左右する大きな要素になります。

したがって、人事評価においては、この4つの部分を意識した運用を行うことが必要となります。

人事評価の原則

人事評価の際は、4つの原則(基本ルール)に則った、校正な運用が必要となります。

1)期間限定の原則

評価は定められた期間に限定して行う必要がありますので、対象期間外の行動を評価対象としてはいけないというルールがあります。

例えば、半年や1年といった対象期間が定められているのであれば、その対象期間の中で行われた行動や成果を評価の対象にする必要があります。

評価基準の明確化の一例。全体共通の評価事項と所属部署・役職ごとに定めた評価事項が必要。

2)職務行動限定の原則

評価対象は日常の職務行動に限定して行う必要がありますので、人物特性や勤続年数、学歴、年齢、職務経歴、性別等の属人的な要素を評価対象としてはいけないというルールがあります。

3)評価事実に基づく評価の原則

評価者は「業務上の明確な事実」に基づいて評価を行う必要がありますので、潜在能力を推測して評価をしてはいけないというルールがあります。

例えば、本人の出身校や、保持している資格などから、「この人はこれだけできるだろう」という具合に勝手に推測して評価をしてはいけません。

4)評価規定・基準準拠の原則

評価は規定やルールに従って行う必要があります。評価を行う直前に、必ず規定やルール、人事評価シートの内容を熟読して理解を深めておくことが重要です。

人事評価のステップ

人事評価制度を導入する場合に、何から始めるのかについて説明します。

1)会社が社員に求める評価基準の明確化

第1ステップは「会社が社員に求める評価基準の明確化」です。

評価は評価基準に基づいて行うため、あらかじめ内容を十分理解しておく必要があります。そして、評価基準は本人の会社での位置づけ、例えば所属している部署や役職等によって決定することが一般的です。

評価基準の明確化の一例ですが、責任感や情報共有、自己啓発など、会社が全従業員に共通して持っておいてほしい評価項目があります。そして、ニーズ把握や販路開拓、計数管理など、所属部署や役職ごとに定めた評価項目があります。

 このように評価項目を定めた上で、評価対象期間中の事実を拾い上げて評価を当てはめることになります。

2)評価事実の抽出

第2ステップは「評価事実の抽出」です。

取り上げる事実の範囲として、職務行動の中で本人の評価決定の材料となるもの、これが評価事実の対象になります。そして事実を取り上げる期間は、評価対象期間中ということになります。

評価事実の抽出における注意点は以下のとおりです。

①評価対象期間外の業績や行動を抽出しないこと

②偶然発生した例外的な事柄だけで評価をしないこと

③評価時期に近い出来事だけを抽出しないこと

④プラス面、またはマイナス面の一方に偏った評価結果とならないようにすること

⑤相手に対する感情や先入観、偏見を捨てて丁寧に事実を見ること

⑥事実と評価を混同しないこと

3)評価項目への当てはめ

第3ステップは「評価項目への当てはめ」です。

第2ステップで抽出した評価事実を、適切な評価項目に当てはめる際に、下記の3つの点に留意する必要があります。

①評価基準との突き合わせ

人事評価シートの各項目内容を理解した上で、先入観にとらわれずに、評価事実を評価基準の内容に付き合わせることが重要になります。

②1つの評価事実を多くの評価項目に当てはめない

1つの事実を複数の評価項目に当てはめてしまうと、1つの事実だけで評価全体に影響を及ぼしてしまいます。1つの事実は、多くても2つの評価項目までとすることが望ましいです。

③被評価者(部下)への指導・育成を意識して当てはめる

どの評価項目に当てはめるか迷った場合には、被評価者(部下)の指導育成という観点から、最も効果があると考えられる項目に当てはめることがポイントとなります。

4)評価段階の選択

第4ステップは「評価段階の選択」です。

これは明確化した評価基準に則って評価の段階を決定することです。

評価段階設定の一例を説明します。5段階中の最上位を最大評価の10点、最下位を最低評価の2点とし、中央を標準レベルという意味合いで6点としています。

通常、評価を考える場合には、中央の標準レベルをまず設定することが大事になります。この標準レベルというのは、会社が理想とするレベルには達していなくても、やるべき業務を支障なく遂行できている状態と考えます。最初に標準的な評価がどのレベルなのかを決めておくと、評価のブレを防ぎやすくなります。

 例えば、特筆すべき本人の成果や具体的な行動、努力しようとする姿勢などが見える場合、もしくは同じ業種の他の社員よりも優れた点がある場合に、標準レベルより上の評価となります。

評価段階設定の一例。5段階中の最上位を最大評価の10点、最下位を最低評価の2点とし、中央を標準レベルという意味合いで6点としています。

5)指導・育成ポイントの明確化

最後の第5ステップは「指導・育成ポイントの明確化」です。

フィードバックと呼ばれるもので、最終的に決まった評価結果を本人に伝えるという人事評価最後のステップになります。

①改善すべきポイントの具体的な洗い出し

評価項目に沿って、「業務上のどういった点を改善することが課題か」を示します。業務上の行動を細分化して示すことで育成すべき課題が明確になり、指導が行いやすいという点が挙げられます。

②指導・育成課題の改善策を立案する

評価結果から明らかになった指導育成課題について、「どのように改善・習得するのか」の効果的な施策を示します。多くの会社で実施されているOJTもこの方法の1つです。

③改善点を業務で発揮する場面を確認する

改善点を業務で発揮する場面を意図的に設定し、上司としてどこまで課題解決できたかを確認します。

例えばお客様と会議をする場合に、その会議の進行役をやってもらう、あるいは業務のマニュアルを作ってもらう、会議の議事録を作ってもらう、といったことも1つの取り組みになると思います。

期初から期末までの具体的フロー

期初から期末までの具体的なフローですが、まず、最初に目標設定を行います。

当然、目標設定は評価対象期間の最初である期初に行う必要があります。そして、期中で目標の進捗の確認を行って、期末時点で自己評価をしてもらいます。

その後は一次評価を行い、一次評価・二次評価をすり合わせた後、二次評価と全社的な最終調整を行って、フィードバックする、という流れになります。

自己評価の考え方

自己評価の趣旨は、被評価者(部下)が自分を振り返って、現実の自己業務遂行レベルを理解し、自分の強みと弱みを的確に捉えて、今後努力すべき課題を認識するためのものです。これは自身の成長のために行うものであって、過大評価や過小評価によって現在の自分を見誤ってしまうと、今後努力すべき方向性を間違えかねません。

注意すべき点として、評価者は自己評価に引きずられることなく、あくまでも参考情報として捉える必要があります。

自己評価の扱いですが、評価者にとっては、被評価者(部下)が自身をどのように判断しているかを理解し、指導・育成材料にするためのものという位置づけとなります。

一次評価者・二次評価のすり合わせ

二次評価者は通常、一次評価者の上司にあたりますので、自身が統括する一次評価者の評価結果を見て、評価のばらつきを把握できる立場にあります。

二次評価者は一次評価結果を尊重する一方で、一次評価者の評価能力や評価傾向をよく把握した上で、次の役割を担当することが重要になります。

1)評価結果の確認修正

一次評価者の出した結果に誤りが疑われる場合には、一次評価者から説明を聞いた上で、納得できる内容かどうか確認することが重要になります。

二次評価者は一次評価者よりも評価能力が優れているという前提のため、説明を聞いても納得できない場合には、二次評価で結果を修正することになります。

2)評価結果の甘辛調整

一次評価者の出した結果に甘辛の評価傾向が疑われる場合も、一次評価者からの説明を聞いた上で、納得できる内容かどうか確認することが重要になります。

一次評価者の説明に納得が得られない場合には、その理由を一次評価者に説明した上で、評価結果のアンバランスを調整することが求められます。

評価エラー

評価の際に、陥りがちな評価エラーの典型的な項目は次の通りです。

1)ハロー効果

特定の優れている点や劣っている点が、他の評価項目に影響してしまう、あるいは、優れた部分(劣った部分)や第一印象だけで全体の評価まで影響してしまう傾向のことです。

2)寛大化傾向

自分の職場の優位性を強調するために、自分の部下を実際以上に良い評価にしてしまう、あるいは、よく知っている者、頼りにしている者を実際以上に良い評価にしてしまう傾向のことです。

3)中心化傾向

被評価者(部下)をよく知らないために評価に自信がない、評価結果を説明する自信がない、差をつけると評価が低い人の士気が下がることを気にする、といった理由から評価が中心に偏ってしまう傾向のことです。

4)自己投影効果

被評価者(部下)が自分と似ている意見を持っていたり同じ行動をしたりすると高い評価をつけてしまう、逆に異なる意見を持っていたり異なる行動をしたりすると低い評価をつけてしまう傾向のことです。

5)評価誤差

学歴が高ければ覚えも早く知識も豊富と思い込む、知識が豊富であれば判断力も高いと思い込む、判断力が高ければ業績も良いと思い込むという、推測による評価をしてしまう傾向のことです。

6)期末誤差

評価を実施する時期に近い頃の行動をもとに評価してしまう傾向のことです。本来であれば、全期間を評価対象期間として評価事実を平等に抽出する必要があります。

7)メイキング

最初から評価結果を決めておき、逆算して評価のストーリーを作り上げてしまう傾向のことです。これは人事評価を設計している意味が全くなくなってしまいます。


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この記事を書いた人

社会保険労務士/中小企業診断士 鳥飼 祐介
経営人事総合事務所クリエイションハイブ 代表

大学卒業後、事業会社の人事部業務全般に従事し、総合コンサルファームに転職後は人事労務を専門にコンサルティング業務を行う。
主に、株式上場(IPO)を目指す企業の労務管理体制構築や、人事制度構築の支援実績を積む。
2021年8月独立後の現在、専門性の高いノウハウを活かし、プライム上場企業から中小零細企業まで、様々なお客様を相手に顧問活動を行う。企業の人材確保が難しい中、現場に入り込んだハンズオン(半常駐)型の改善支援を積極的に展開している。

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