抵当権と根抵当権とは?メリットデメリットを中小企業診断士がわかりやすく解説!
渡邊 賢司
中小企業診断士
株式会社3Rマネジメント 代表取締役
株式会社IoTメイカーズ 代表取締役
約15年にわたり、事業再生支援等に従事。100社以上の中堅・中小企業に対し、事業再生スキーム構築、経営改善計画作成支援、伴走支援、金融機関交渉等を行ってきた。東京都中小企業再生支援協議会での事業デューデリジェンス業務にも多数従事。金融機関向けや税理士向け研修講師等も多数実施。
2016年に小中学生向けプログラミング教室等を運営する(株)IoTメイカーズを設立し、中小企業経営者としての顔も持つ。同社では、6年間で5つの新規事業を立ち上げた。
抵当権と根抵当権とは?基本を押さえよう
お金を借りる手段として、土地や建物を担保にして銀行からお金を借りることができます。しかしながら、銀行は、お金を貸しても返ってこなかったら困ってしまいます。
そこで、銀行は「抵当権」という権利を設定して、お金を貸しますという流れになります。
「抵当権」とは・・・?? わかりやすく言うと、
「お金を借りるときに、もし返せなくなったら家や土地を売って返済するために、その家や土地を担保にする仕組み」です。つまり、借金が返せない場合に備えて、貸す側が保険のように不動産を押さえる権利を持つものです。
抵当権の一種として根抵当権があります。
抵当権は「1つの担保物件に対して、1つの抵当権を設定することができる」
根抵当権は「限度額内であれば、複数の取引を担保にすることができる」
という、違いがあります。
また、抵当権は、資金を借入できるのは1回限りで、お金を完済すれば貸主の抵当権は消滅します。
一方、根抵当権は、極度額の範囲であれば何度でも資金を借入できる特徴があり、お金を完済しても貸主の根抵当権は消滅しません。
上図において、抵当権と根抵当権の違いを説明しますと、
抵当権の設定においては、住宅を1億円で買った場合、1億円の価値が土地建物(担保物件)にあると認められると、1億円の抵当権が設定されて、お金を借りることができます。
根抵当権の場合は、1億円の価値があると認められる担保物件を基に、限度額1億円の根抵当権を設定して、5千万円を借りることができます。さらに、お金を借りたい場合は、限度額の1億円までお金を借りることができますので、プラス5千万円を借りることができるということになります。
抵当権と根抵当権の特徴を整理すると以下の通りです。
抵当権の主な特徴
- 特定の債権を担保する
- 一つの特定の債権に対して設定されます。たとえば、特定のローンや借入金に対して担保として設定されます。
- 上限は債権額
- 担保不動産の評価額がどれだけ高くても、債権額を超えて債権者が取り戻すことはできません。
- 設定時に債権額が確定
- 抵当権を設定した時点で債権額が明確に定まります。
根抵当権の主な特徴
- 継続的取引に対応
- 特定の一つの債権だけではなく、複数の将来の取引をまとめて担保することができます。例えば、企業が銀行と長期にわたる借入や融資取引をする際に使われます。
- 元本が変動する
- 将来発生する債務に対して設定されるため、元本(債権額)が取引の度に変動します。ただし、上限額が定められており、その範囲内であれば新たな借入や返済が行われます。
- 元本の確定が必要
- 根抵当権の元本は、通常、元本確定請求によって確定されます。これにより、それ以降の取引については根抵当権の効力が及ばなくなります。
抵当権と根抵当権の基本として、上述した内容を端的にすると下記の通りです。
抵当権は特定の債権を担保にしますが、根抵当権は将来の複数の取引をまとめて担保にできます。根抵当権は元本が変動し、継続的な取引に向いています。
抵当権のメリットとデメリット
抵当権のメリットとデメリットをお伝えします。
抵当権のメリット
- 借主の信用力向上
- 不動産を担保に提供することで、借主はより大きな金額の融資を受けられる可能性が高まります。また、借主の返済能力が担保によって補強されるため、借りやすくなることがあります。
- 債権者のリスク軽減
- 債権者は、借主が返済できなくなった場合に担保不動産を競売にかけて資金を回収できるため、貸付によるリスクを軽減できます。
- 長期借入に適している
- 抵当権は通常、長期にわたるローンに使われます。例えば住宅ローンなどで、借主は長期返済を前提に融資を受けやすくなります。
抵当権のデメリット
- 借主の財産制約
- 一度抵当権を設定すると、その不動産を自由に売却や転用することが難しくなります。抵当権を外すためには、借金の全額返済が必要です。
- 担保不動産が売却されるリスク
- 借主が返済できなくなった場合、その不動産は競売にかけられ、住んでいる家を失う可能性があります。
- 設定・解除の手続きにかかるコスト
- 抵当権を設定する際には、登記費用や手数料がかかり、手続きに時間と費用が必要です。
根抵当権のメリットとデメリット
次に根抵当権のメリットとデメリットについてお伝えします。
根抵当権のメリット
- 複数の取引をまとめて担保にできる
- 根抵当権は、将来発生する複数の借入や取引を一括して担保にできるため、企業や事業者が金融機関との継続的な取引を効率的に管理できます。新たに取引が発生するたびに担保を設定し直す手間が省けます。
- 柔軟な資金調達が可能
- 取引の金額が変動しても、根抵当権の上限内であれば対応できるため、借主は必要に応じて何度でも借入を行うことができます。これは特に、頻繁に資金調達が必要な事業者にとって便利です。
- 元本確定までは再設定の手続き不要
- 一度根抵当権を設定すれば、元本が確定するまで新たな借入にも対応できるため、抵当権のように新たに担保を設定・解除する手続きが不要です。
根抵当権のデメリット
- 元本が確定するまで不安定
- 根抵当権は、元本が確定するまで担保の範囲が変動するため、債権者にとっては不透明な部分があります。元本が確定しない限り、債務の範囲が明確に定まらないため、リスクが残ります。
- 借主にとって担保の流動性が低い
- 根抵当権を設定すると、担保に入れた不動産の処分や新たな担保設定が難しくなります。借金の総額が確定しない限り、担保としての流動性が制約されます。
- 長期間の契約が必要な場合の負担
- 根抵当権は長期の継続取引に適していますが、その分長期間にわたり担保不動産が拘束される可能性があり、借主は資産の運用自由度が低くなります。
「元本が確定する」とは・・・??
根抵当権において担保される最終的な借金の額(元本)が確定することを指します。根抵当権は、将来発生する複数の取引や借金を担保にできる仕組みで、取引の度に元本が増減する可能性があります。しかし、ある時点で元本を確定させることにより、その時点以降は新たな借入や取引は担保の対象外となり、最終的に確定した借金に対してのみ根抵当権が効力を持つようになります。
例えば、企業が銀行との取引で根抵当権を設定している場合、1年目に500万円、2年目に300万円を借りたとします。この時点では800万円が元本となり、さらに取引を続けて借入が増える可能性もあります。しかし、ある時点で銀行側が「元本を確定させて、これ以上は担保としての追加借入を認めない」とすると、これまでの800万円が元本として確定し、それ以降の取引は新たに担保設定が必要になります。
債権者(貸し手)の請求:債権者が元本の確定を求めることができます。
借主(借り手)の請求:借主側からも元本確定を求めることができ、取引を終了させる意向を示せます。
契約による規定:契約の中で一定の期限や条件に従って元本を確定させることが定められている場合もあります。
元本確定の効果:確定した元本の範囲内でのみ担保権が有効となり、それ以降の新たな取引や借入は根抵当権の担保の対象外となります。
どちらを選ぶべき?抵当権と根抵当権の活用場面
抵当権と根抵当権の違いを含めて、活用できる場面をご説明します。
抵当権は、一般的な住宅ローンや特定の借入に対してよく利用されます。目的が明確であり、一回限りの融資に適しています。
根抵当権は、特に企業が銀行と継続的に取引する際に便利です。複数回にわたる融資や取引を担保することができ、手続きの効率化を図ることができます。頻繁に取引が発生する事業者には適しています。
どちらの権利も不動産の価値を担保に利用する点では共通していますが、使用目的や運用の仕方が異なるため、事業の内容や資金調達の計画に応じて適切に使い分けることが重要です。
よって、お金を借りるという手段において、どのような目的でお金を使うのかを明確にしたうえで、抵当権か根抵当権の活用場面が異なってきます。
企業経営での根抵当権の活用のすすめ
抵当権と根抵当権における活用場面の違いについて上述しましたが、抵当権においては活用場面が限定されることが理解頂けたかと思います。
一方、根抵当権においては、日ごろの運転経費や新たな設備投資などに活用することができるため流動性・自由度が高く活用することができます。
したがいまして、企業経営においては、根抵当権を活用することも検討して頂き、柔軟な資金繰りの手段の一つとしておススメしたいと思います。
企業経営において、根抵当権を活用した場合の具体的なケースをご紹介します。
根抵当権の具体例1 :運転資金の確保
企業は日常的な運営に必要な資金(運転資金)を継続的に借り入れることがあります。
例えば、仕入れ代金や従業員の給与の支払い、光熱費など、日常的にかかるコストをカバーするために根抵当権を利用し、毎月または毎年の融資を受けることができます。
製造業の企業が、材料の仕入れや従業員の賃金支払いなどのため、銀行から定期的に運転資金を借り入れ、工場を根抵当権として設定する。
根抵当権の具体例2:設備投資
事業拡大のために新しい設備や機械を購入する際、企業は根抵当権を活用して資金を調達します。根抵当権を設定しておけば、将来的に追加で借入が必要になった際にも再度担保を設定する手間を省くことができます。
企業が新しい生産ラインを設置するため、銀行から複数回に分けて借入を行う際に、工場や土地を根抵当権として担保にする。
根抵当権の具体例3:季節的な資金調達
特定の季節に売上が集中する業種(例えば農業や観光業)では、繁忙期に向けて資金を調達する必要があります。根抵当権を利用することで、繁忙期前に必要な資金を効率的に借り入れ、閑散期に返済するなどのフレキシブルな運用が可能になります。
観光業の会社が、観光シーズン前に広告や人員配置のための資金を借り、観光施設を根抵当権として設定し、シーズン終了後に返済を行う。
根抵当権の具体例4:継続的な融資枠の確保
企業は、突発的な支出や資金需要に備えて、根抵当権を使って金融機関と常に融資枠を持つことができます。この融資枠を利用して、緊急の資金需要に迅速に対応することができ、資金繰りのリスクを低減できます。
商社が不測の大口取引のために、事務所ビルを根抵当権として設定し、急な資金調達が必要になった際に銀行から迅速に融資を受ける。
根抵当権の具体例5:再融資(リファイナンス)
既存の借入がある場合、根抵当権を活用して新しい借入を行い、既存の借入金を返済したり、借入条件を見直すことができます。これにより、借入金利を低減したり、返済期間を調整することが可能です。
中小企業が、以前に設定した借入を根抵当権を使って新しい融資に切り替え、条件を改善する。
根抵当権は、これらのように企業の資金調達や運営を柔軟にサポートする手段として非常に有効です。
抵当権と根抵当権とは?の記事のまとめ
この記事では、抵当権と根抵当権の基本的な概念、メリット・デメリット、活用場面について解説しました。
抵当権は、特定の借入に対して設定される担保で、住宅ローンなど一度限りの借入に利用されます。債権額が確定し、不動産の処分が制約される反面、長期の借入に適しています。
根抵当権は限度額内で複数の取引を担保にできるため、企業が銀行と継続的に取引する際に便利です。元本が変動し、再設定の手間が省けるため、頻繁な資金調達に向いています。
企業経営では、運転資金や設備投資に根抵当権を活用することで、柔軟な資金繰りが可能となります。借入の目的に応じて、抵当権と根抵当権を使い分けることが重要です。
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